北欧好きといえども、まだまだ知らない&見ていないことも多いのですが、そのうちの1つが、フィンランド映画界の巨匠とも言われているアキ・カウリスマキ監督の映画作品。実はまだ1作品も見たことがなかったのです…!
そういうわけで、今回は、アキ・カウリスマキの作品であるフィンランド映画「希望のかなた」を見ました!
この映画のメインテーマは、フィンランドの難民問題。シリアのアレッポからフィンランドにやってきた男カリードが主人公。フィンランドでの難民申請が却下されたカリードが、不法滞在者となり路頭に迷うも、さまざまな人に助けてもらうというのが、メインストーリーとなっていきます。
心温まる部分もあるが、現代のフィンランド(広く言うと、現代ヨーロッパ)が抱える難民問題のシビアな側面もキチンと描かれており、アキ・カウリスマキからの問題提議やメッセージがヒシヒシと伝わる良作だったと思いました。悲しくつらい現実だけを突きつけるのではなく、希望も見いだせるストーリー展開のバランスが絶妙でした。
アキ・カウリスマキの他の作品を見ていないので、比較できませんが、とにかく独特な世界観が印象的。セリフや説明がびっくりするほど少ないのにも関わらず、言いたいことは感じ取れるし、全体的に静かな映画だけど、静けさの中にもダイナミックさがある不思議な映画でした。
人を助けるって本来、理由なんて要らないのだな…と考えさせられる映画。
混沌とした時代だからこそ、多くの人に見てほしい傑作です!
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【目次】
作品紹介
「希望のかなた」(原題:Toivon tuolla puolen)
制作:2017年
時間:99分
音声:フィンランド語
字幕:日本語
あらすじ
シリア内戦から逃れるため、フィンランドにやってきたシリア難民のカリード。フィンランドで難民申請をし、生き別れた妹を呼び寄せて幸せに暮らすことを願うも、カリードの難民申請は却下される。シリアへの強制送還が決まり、脱走するカリード。フィンランドで不法滞在者となるも、レストラン経営者のヴィクストロムに出会い、助けてもらう。妹を探すというカリードの唯一の希望を叶えるべく、ヴィクストロムなどが、カリードの妹探しを手伝うことに…。
登場人物
登場人物を紹介します!
カリード
シリアのアレッポ出身。シリア内戦の空爆により、家族を失う。唯一生き残った妹とともに、ヨーロッパを目指すも、移動途中で混乱に巻き込まれ、妹と、はぐれてしまう。カリードの唯一の希望は、妹を探しだすこと。そんなカリードは、偶然、フィンランド行きの貨物船に乗り合わせ、フィンランドに到着。貨物船で知り合い助けてくれた人から教えてもらった「フィンランドは、とにかくいい国で、皆が平等」という言葉を信じ、フィンランドで難民申請をするも、却下される。
ヴィクストロム
酒におぼれる妻や自身の仕事に嫌気がさし、家出。ギャンブルで大儲けし、念願のレストランをオープンさせる。レストランのゴミ捨て場で寝ていた不法滞在者のカリードを助けるだけでなく、自身のレストランで働かせることに。
感想
現代ヨーロッパが抱える難民問題、北欧フィンランドでも…。
フィンランドというとよい教育やワークバランスの取れた生活、平等な暮らしぶりで有名。しかし、私たち日本人が持っているイメージのままこの映画を見ると、少し驚く描写が多いかもしれない。
例えば、フィンランド人民解放軍というジャケットを着た連中。彼らは、明らかに外見が中東系であるカリードを標的に暴力を振るう。もしかしたら、カリードは、見た目が中東系なだけで、フィンランド出身かもしれないけど、そんなことは連中たちには関係ないように見えた。ただただ、移民らしき人を嫌っているように見えた。劇中で何度も登場するのは、残念ながらこういった排他的や差別的思想の人々が一定数いるフィンランドの現状をアキ・カウリスマキが訴えているかのようだった。
また、カリードの難民申請が却下されるというシーンも難民問題をシビアに描いていると思った。カリードは、シリアのアレッポという激戦地から逃れてきた紛れもない難民なのだが、アレッポは戦闘地ではなく、保護する必要がないと言い切り、難民申請を却下してしまうフィンランド側。難民を受け入れるということの狭間で、ヨーロッパが抱える現状が描かれているなと感じました。
いくらフィンランドでも難民として認定されるのは、ハードルが高いという現状があるのだろ。カリードが警察署に行く前に、駅のシャワー室で、身なりを整えるシーンがあるのですが、シャワー室の受付での会話が印象的だった。(…ヘルシンキ中央駅って地下にシャワー室あったっけ…?)今から警察署に行くと言うカリードに対して「え?本気なの?」と答える受付担当。多くは語られていないけど、カリードの身なりから受付担当は、彼が難民だと気づいたのだろう。「(見込みないのに)本当に警察署に行くの?」というちょっとした返しからも、難民申請のハードルの高さを感じるものがあった。
話はそれるけど、ヨーロッパが抱える難民問題やイスラームの問題に関しては、ヨーロッパのイスラーム研究で有名な内藤先生の本から勉強するのが、非常におすすめ!私も何冊も持って読んでいます!
それでも助けるということ
難民申請が却下され、不法移民となったカリード。描かれているこの現実は、非常にシビアである。しかし、この現実の中、カリードをギリギリのラインで助けてくれる優しい人がたくさん現れるところもこの作品の見所。(ギリギリというより完全に違法な方法で助けている。)
特に、レストラン経営者のヴィクストロムはその一人。特にレストラン経営が軌道に乗っているわけでもないのにも関わらず、不法滞在者であるカリードをかくまい、従業員として雇い始める。レストランの従業員も、カリードを前向きに助けている。カリードに問い詰めることもせず、静かに彼を助ける。登場人物は皆、別にカリードを助けてあげる必要はなかったはずだし、カリードをかくまうことによるデメリットの方が圧倒的に多い状況の中、カリードをあの手この手で助けようとする。
カリードのような状況にまでいかなくても、登場人物の皆誰もが、人生の中で困ったときに、誰かに助けられて生きてきたと思う。誰かに助けてもらった記憶が、どんな人かもよく知らないシリアからの不法移民を自然と助けるという行動に移させたのかもしれないなとも感じる。
昔、フィンランド人の友達が「困っている人がいれば、助けてあげられる人が助けてあげればいい。」とポロっと言っていた。彼女の発言は、福祉国家で育ったからこその考えかもしれないが、人間って本来はそうあるべきなんじゃないかなと改めて映画を通じて感じました。
アキ・カウリスマキの世界観が絶妙
この映画は、非常に独特なテンポやトーンの中、ストーリーが展開されていく。これは、アキ・カウリスマキが生み出す独特な世界観なんだと思う。テーマが非常にシビアなものであるにも関わらず、シビアなだけに終わらせないのは、物語の所々にクスっと笑えるようなやり取りが仕込まれているからだなと感じます。
特に、突然すし屋を営み始めるシーンね。あれは、色々ツッコみながら見れますよ。
それにしても主人公のヴィクストロムが謎キャラすぎて、地味に面白かった。突然家出するし、ギャンブルで大あてするし、不法移民をさらっと助けるし、人脈もただならない。いったいどんな人生歩んできたのか…それが途中からひたすら気になり始めてしまうぐらい…。こんなキャラクターをさらりと登場させることができるアキ・カウリスマキすごいな…と思いました。
劇中のサントラも渋くて最強に自分好みだった。アキ・カウリスマキのセンスかな…アキ・カウリスマキの他の映画の予告編とかも見てたら、他のサントラの使い方も私は好きそう....他も見たいなと思う。アキ・カウリスマキの作品「ル・アーヴルの靴みがき」の予告編も貼っておきますね。
多くを語らせない演出なのに、セリフ以上に何かが伝わってくる映画「希望のかなた」。これぞまさしく北欧の映画だ!
ちなみに、アキのお兄さんミカ・カウリスマキも映画監督。「世界で一番しあわせな食堂」が日本公開されて話題になりました。アキとミカが持つ魅力はそれぞれ異なりますが、実は似ている独特な世界観がツボです。
www.natsuminscandinavia.com
まとめ
現代のヨーロッパを語るには避けては通れない難民問題。このシビアな問題を現実的かつユーモアを交えて描く「希望のかなた」は、傑作という部類の映画と言っても過言ではない!複雑な現代だからこそ、多くの人にみてもらいたいそんなフィンランド映画です。
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